死して屍 拾う者無し

最近見た映画の感想

スティーヴン・スピルバーグ/監督
「ミュンヘン」

ツタヤが近所に出来たので、映画のＤＶＤを借りていっぱい見ようと思っています。

今回見たのは、スピルバーグ監督の「ミュンヘン」。
１９７２年９月、ミュンヘンオリンピック会場でのパレスチナゲリラのテロ事件と、その報復のために組織された、イスラエルの秘密暗殺チームの暗闘を描く。

原作は「標的（ターゲット）は１１人」という実録本だそうです。
ちなみに私はそちらは未読。

有名な、ミュンヘンオリンピックでのＰＬＯゲリラによるイスラエル選手団へのテロ事件、通称＜黒い９月事件＞に対するモサドの報復作戦＜神の怒り作戦＞に選ばれた一人の青年。
彼と、他に選ばれた４人のユダヤ人達のアサシン・チームの辿る数奇な運命。

主人公は一応モサドの一員ですが、割とボンクラな感じの普通の青年です。
ある日突然、メイア首相以下のイスラエル首脳陣の前に呼び出され、密命を受けるわけです。

その密命とは、軍人としての戸籍を一切抹消した上で、ヨーロッパにおけるＰＬＯゲリラのブレーンや幹部達１１人を暗殺するためのチームを率いること。
金銭面でのバックアップはするが、イスラエル軍事機関との繋がりは一切断ち切られ、死のうとどうしようと国は一切関知しない。

まさに、死して屍拾う者無しの世界です。

国家への忠義をタテに否応なく引き受けさせられた主人公たちは、ローマ・パリ・ＮＹＣ・ベイルート・アテネ・ロンドン・アムステルダムと、欧州全土殺し旅へと赴くのであった…。

モサドといえば、世界最強の諜報機関として有名ですが、その最強スパイ達のカッコイイ暗殺アクションが展開するのかと思いきや さにあらず、もの凄く陰惨で重い話になっていきます。

当たり前ですが、暗殺者もテロリストもゲリラもスパイもみんな人間で、それぞれに生活があります。
特に主人公達がターゲットとした人々は、知識階級ばかりで、実際に会ってみると本当にいい人達ばかりなんですね。
ユダヤの敵とはいえ、彼らを手にかけることに対する葛藤、そして暗殺を進めるにつれ、逆に見えざる敵から追われる立場になっていく切迫感、それらによって主人公達は精神的肉体的に追いつめられていきます。

この辺りが本当にリアルで怖いです。
近年の実録指向のスピルバーグ監督の真骨頂ですね。

結局、テロでの恐怖と恫喝による紛争の収拾など絵空事でしかなく、憎しみの連鎖を生むだけだということは、近年の中東情勢や911テロを見れば証明されています。

物語のラストシーンでは、ＣＧで再現された世界貿易センタービルを映し出します。
そのメッセージは明確です。

ＰＬＯとアルカイダは同じムスリムの武闘派組織とはいえ、もちろん完全に別物ですが、根本での問題は同じということです。


ところで、こんな重いテーマにもかかわらず、ボンクラな私は映画の中の７０年代ファッションとか、当時の名車の数々に目がいってしまって結構楽しめました。
特に、フランスの情報シンジケートのボスの息子が乗っているシトロエンＤＳ。
何度も登場する上に、印象的な使われ方でシビレましたよ。

ちなみに、そのシンジケートのボスの俳優はどこかで見た顔だと思ったら、「００７ムーンレイカー」の悪役だったマイケル・ロンズデールでした。
こないだテレ東系の地元局で日曜昼間に「ムーンレイカー」を見たばかりだったので、奇遇でしたね。
あと、００７といえば、６代目ボンド役のダニエル・クレイグも出てますよ。

絵は思わず描いてしまったシトロエンＤＳ。
クルマとかあんまり描かないですけど、楽しんで描けました。