シークレット・エージェントマン

最近読んだ本の感想

福井晴敏 著
「Twelve Y.O.」

福井晴敏さんの商業デビュー作「Twelve Y.O.」を読みました。
福井さんはこの作品で江戸川乱歩賞を受賞されて、デビューされたそうです。

ちなみにe-Bookoffの通販にて１００円で買ったもの。
まとめ買いの必要はあるけど、イーブックオフもかなり良いですよ。

処女作の「川の深さは」が乱歩賞を逃してお蔵入りしたため、翌年応募された今作は、何と前作の続編となっています。
また、「川の深さは」で受賞を惜しくも逃した怨念からか、キャラクターの配置が「川の深さは」とかなり似通っており、続けて読んだ私には興味深かったです。

主人公はまたもや虚しい日常に燻っている中年。
今回は元・海上自衛隊の敏腕ヘリパイロットで、事故のため現役を退き、現在はスカウトマンとして虚しい日々を過ごしている。

前作のワンマン・アーミーの少年のポジションは、今作では戦闘美少女・ウルマが担当。
今作でもパーフェクト・ソルジャーぶりをいかんなく発揮しています。

また、「川の深さは」での騒動の後、改革・新設された防衛庁の情報機関は「D.A.I.S」と命名され、正式に登場。
前作のラストで少しだけ登場した、狸オヤジやツンデレ女子たちが今作ではメインキャラとなって大活躍します。
ちなみに、D.A.I.S（ダイス）は福井作品の現代劇には、今後必ず登場する重要な機関となります。

物語は謎のテロリスト・トゥエルブによる、米国防総省へのサイバーテロおよび脅迫を軸に[キメラ][BB文書][GUSOの門]などの謎のキーワードを散りばめたサスペンス・アクションが展開していきます。
このあたり、謎解き要素も含まれており、いつものアクション描写とあいまって、読み応え十分でした。

そして何と言っても、後半の沖縄はキャンプ・シュワブでの大戦闘シーン、大カタストロフの描写の凄さ！
文字での表現がどんなスゴイ特撮やCG映像をも越え得るのだと、初めて認識させられました。
とにかく、筆の腕力とでもいうべきものが、もの凄いんですね。

今回の重要なキーマン、テロリスト・トゥエルブですが、濃いキャラだらけのこの物語のなかで、一人だけ存在感の薄さによって逆に際だっています。
これは恐らく、重要なキーワードである聖書に引っかけて、キリスト教の聖人的な殉教者として描きたかったのかなと思いました。

ちなみに、意味不明なタイトル「Twelve Y.O.」ですが、これは１２イヤーズオールド、つまり１２歳という意味です。
思わず楳図かずおの「１４歳」を思い出しますが、案外テーマの部分で通底したものがあるかも知れません（私の気のせいだと思いますが）。

しかし…「川の深さは」でも市ヶ谷駐屯地での大戦闘が隠蔽されたことになっていましたが、今回の大カタストロフはさすがに隠蔽は無理なんじゃないかと思いましたね。
今後の作品でこの事件を踏まえてどう展開していくのか、興味もあるし、不安にもなります。

エンターテインメントに徹し、かつ国と国防のあり方を問い続ける福井節は、ボンクラな男子なら必ず楽しめること間違いなしです。
最近はガンダム関係の仕事ばかりが目立ちますけど、また現代劇もやって欲しいですね。