川の深さは

最近読んだ本の感想。

福井晴敏「川の深さは」

福井さんの処女作を加筆した作品だそうですが、処女作にしてこのドラマツルギーのレベルの高さ。
やはり、福井晴敏恐るべし。

オウム真理教を連想させるカルト教団のテロリズムと、解体された防衛庁の諜報機関の陰謀の関係。
日本という国のあり方を問いかけ続ける福井節は、処女作から一貫した作風なのだなぁと思いました。

そして、人間同士の繋がりを信じ続ける姿勢は、今作でも心を打ちます。
福井さんご自身、作家としてデビューするまで、非常に辛酸をなめながら苦労された経験をお持ちなのにもかかわらず、決してニヒリズムに陥るような物語にしない辺り、読者に対する暖かみや優しさを感じとれます。

また、自身の作風を「ハード・ファンタジー」とおっしゃっている福井さんですが、そのファンタジーの部分というのは、軍事や諜報にかかわるアクション描写についてのことというよりも、例えばこの物語の主人公である桃山のようなキャラクターについてのような気がします。
熱血漢で人情派の元マル暴刑事で現在は警備員という桃山のキャラクターは、今の日本ではまさにフィクションでしか存在し得ない「大人」のキャラだと思います。

自分も含めてですけど、今の３０～４０代って本当に幼稚じゃないですか。
とてもじゃないけど、桃山のようなオッサンにはなれそうも無いなぁと思ってしまいます。

ちなみに私は小説を読むとき、配役を妄想しながら読むのが好きなのですが、桃山役がどうしても思いつかないですね。
いっそのこと、ピエール瀧に再登板願うか？
しかしどうも違うんだよなぁ…。

ところで、この本の解説はトヨザキ社長こと豊崎由美さんが担当されています。
この人が解説を引き受けるくらいなのだから、やはり福井晴敏は信用できるなと思いました。