THE SUN

最近見た映画の感想

アレクサンドル・ソクーロフ/監督
イッセー尾形/主演

「太陽」

ロシア人の映画監督 アレクサンドル・ソクーロフによる歴史上の重要人物を扱った４部作の第３作目。
第二次大戦終戦直前・直後における昭和天皇の姿を描く。

これは本当に凄い映画でした。
日本映画では、明治以降の近代の天皇を主人公に据えて物語にするなど、いまだに不可能だと思いますが、このロシア人監督はやってのけています。

この映画では、昭和天皇の人物像について批判的な視点は全く無く、その点も日本という国に対する監督の造詣の深さも感じさせます。

イッセー尾形が演じる昭和天皇は、現人神としての孤独と敗戦国の主としての苦悩を抱えながらも、知的でエレガント、かつユーモラスな人物として描いており、非常に複雑な人物像を浮かび上がらせていると思います。

イッセー尾形さんといえば形態模写の名手ですが、昭和天皇の映像資料などを基にした、彼の完璧なまでのなりきり演技は鬼気迫るものがありますよ。

例えば「喋っていないときも口が動いている」という演技などは、昭和天皇の心の内の葛藤をいやが上にも感じさせます。

また、侍従達に時折見せる茶目っ気も、昭和天皇という人物の知性とユーモアをよく表現していると思います。
まぁ天皇をユーモラスに描くこと自体、不敬と言えば不敬なのかも知れませんが。

物語は基本的に歴史的事件（例えば玉音放送や天皇の人間宣言）の背後での天皇の私生活部分を描いており、淡々と進むのですが、そこに浮かび上がる昭和天皇の人物像は極めて個性的で興味深いですね。
孤独、苦悩、知性、ユーモア、そしてイノセンス。
それらを兼ね備えた、一国の君主としても歴史上他に類を見ない人物像です。

印象に残ったシーンは、皇太子を抱いた皇后の写真にいとおしそうにキスをするシーン、月光に照らされた部屋で神格の放棄を決意するシーン、そしてラストの桃井かおり演じる皇后との再会のシーンですね。

桃井かおりさんの演技がまた良いんですよ。
言葉少なくも、お互いのほのぼのとした愛情が画面から伝わってきます。
国家の家長であるべき天皇が、本当に心を許せる人は妻である皇后だけなんですね。

天皇と敗戦と言う題材を描いて、こんなにほのぼのとしたラストを撮れるなんて、本当に凄いです。
日本人やアメリカ人では、こうは撮れなかったでしょうね。