終戦のローレライ

今日の感想
「終戦のローレライ ３巻」

米国海軍の潜水艦とのドッグファイトを制した特殊潜水艦・伊５０７は、太平洋の孤島ウェーク島へ辿り着く。
そこに待ち受ける朝倉大佐から、密命を受け取った絹見艦長以下の乗組員は、アメリカ西海岸へ向けて慌ただしく出航する。
だがそれは、朝倉大佐の壮大なる陰謀であった…。

終戦間際の数日間に起こった、仮想の「知られざる歴史」。
巻の冒頭のあたり、広島へ投下された 原子爆弾によって引き起こされた 恐るべき大惨事の、とてつもなく凄惨な描写に思わず息を飲みます。

そして田口掌砲長ことピエール瀧と 朝倉大佐こと堤真一の、南方戦線での地獄の日々と そこで生き残るために行った「聖餐」。
そして、そこで得たある確信に従って、「国家の切腹」を目論む朝倉の心情と行動に説得力を与えるため、これでもかと言わんばかりの圧倒的な描写が続きます。

朝倉の夢想した「国家の切腹」を敢行して終戦を迎えた後の日本は、私には村上龍の「五分後の世界」を連想させるものでした。

そういえば村上龍さんは、何故日本は本土決戦をしなかったのか？という疑問を元に、「五分後の世界」や「愛と幻想のファシズム」を書いたとおっしゃっていましたが、今思うとその考えは バブル景気を背景にした日本無敵の時代だったからこその発想のように思えます。

福井晴敏さんは、まるで逆で、何故アメリカは日本民族を絶滅させなかったのか？という疑問からこの「終戦のローレライ」を書かれたように感じます。

イラクやその他の国を見ても、歴史上 アメリカが打ち負かした敵国をここまで大事にした例は他には見あたりません。
敗戦からの復興は、勿論日本人の頑張りもあったでしょうが、アメリカの寛大な処置無くしてはあり得ないですよ。
アメリカってそんなヌルい国じゃないですよね？
戦後の日本とアメリカの関係って、本当に謎なんですよ。

歴史の行間を空想して、とてつもない物語を紡ぐ。
しかも、このローレライには「５０才以上の人にガンダムをどう理解させるか」という裏テーマまであるらしいんですよ。
福井晴敏さんは、本当に恐るべき才能を持った、現代最強の語り手のひとりだと思います。

ところで、物語の一端を担う複数の主人公の内、特に印象的な人物のひとり「フリッツ少尉」を映画版だと誰がやっているのか気になったのですが、何と映画には登場しないんですね。
うっそだ～！
さらに３巻での印象的な登場人物「土谷少佐」も登場せず。

映画版を見る気がだんだん失せてきました…。


このエントリーのＢＧＭは レッドツェッペリンで「胸いっぱいの愛を」でした。